一般的に、ソフトウェア業界ではオープンソースは、透明性、柔軟性があり、経済的にも効率がよく、人材育成にもつながる。そして、優秀な才能のコラボレーションから生まれたソフトは、社会貢献という称賛に価するとされている。それでは、音楽という芸術の世界でもこのオープンソースの考え方を当てはめれば、同じような帰結を産んでいくのだろうか。それを考えさせられたのがナインインチネイルズの一件だ。
ナインインチネイルズ・nine inch nailsは、オフィシャルのマスター音源をファンに提供し、リミックスしたものをコンテストで募集し、そこから厳選して、リミックス・アルバム『The Limitless Potential』を完成させ、ダウンロード&ストリーミング視聴を可能にした。(http://www.9inchnails.com/remixes/)このオープンソース的な発想が音楽に適応させるとは、全く思いもつかなかった。特にこのバンドは、アート、音楽、ライブパフォーマンスなど常に時代の先を垣間見せる斬新さから、時代の流れを汲む画期的なプロモーションをすることは予想できたが、Web2.0的時代の流れに乗るとは思ってもみなかったからだ。
音楽をエンターテイメントの一部として捉えた場合、社会奉仕の一部と考えられるかもしれない。また、多数の参加型コンテンツがウェブ上で存在する現在、アーティストとファンの関係が多様化してもいいのではないかと考えられるかもしれない。     
しかし、アーティストの存在意義をもう一度考えて見るべきである。基本的に、ステージ上と客席というポジショニングが、アーティストとファンという関係を構築する。アーティストのアイデンティティーの一部であり聖域と言っても過言でない作品に、ステージ下の人間が踏んで入ることは、そのアーティスト自体の存在を薄くし、アーティストたらしめるものは何であるのか逆に不透明にしてしまうだろう。ナインインチネイルズは、作品をつくるにあたって、ファンと共同作業することで、距離が縮められると錯覚したのだろうか。彼自身に潜在するアイデアが溢れる作品に、幾度も感銘をうけてきただけに、もし、自分の才能に限界を感じ、オープンソースに頼るしか創造性を高める方法がないと思うのならば、アーティストを辞めるべきではないのかと思う。つまり、アーティストという存在がある芸術の世界は、ソフトウェアの世界とは一線を置いているのではないかと考える。
しかし、オープンソースの思想が、芸術の世界にまで広まっていくとすると、アーティストという概念自体が揺らぐ日もそう遠くはないのかもしれない。
                       
                                 百瀬 琢麻(インターン